事業承継税制の改正
1.事業承継税制とは
中小企業経営者の次世代への事業引継ぎを支援する税制です。自社株を後継者に贈与・相続したときに係る贈与税・相続税について、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されていた贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
30年度税制改正では、これまでの一般措置に加え、10年間の措置として新しく特例措置が創設されました。従来からの一般措置と特例措置は選択適用できます。
2.一般措置と特例措置
項目 | 一般措置 | 特例措置 |
対象株式 | 株式総数の3分の2 | 全株式 |
相続時の納税猶予割合 | 80% | 100% |
雇用確保要件 | 5年平均80%維持 | 実質撤廃(理由の報告が必要) |
贈与等を行う者 | 改正前 先代経営者のみ 改正後 複数株主 | 複数株主 |
後継者 | 後継経営者1人のみ | 後継経営者3人まで (10%以上の持株要件) |
特例経営承継期間後の 減免要件の追加 | 民事再生・会社更生時にその時点の評価額で相続税を 再計算し、超える部分の猶予税額を免除 | 譲渡・合併による消滅・解散時を追加 |
特例承継計画の提出 | 不要 | 要 |
提出期間 | - | 30年4月1日から35年3月31日 |
贈与の期間 | なし | 30年4月1日から39年12月31日 |
3.特例承継計画の提出
特例事業承継税制では、承継時までの経営見通し等を記載した特例承継計画を35年3月31日までに都道府県に提出することが要件となっています。期間内であれば、相続又は贈与の発生後に計画書を提出してもかまいませんが、相続税や贈与税の期限内申告書に計画書の添付が要件となっており、期限後提出や更正の請求は認められません。
4.具体例
・被相続人は発行済み株式の全部を所有しており、特例後継者である子が全株を相続。
・全株の相続税評価額は1億円。相続税額は2300万円。
5.贈与税の要件
(1)会社の要件
・非上場の中小企業であり、収入金額がゼロでないこと。
・常時使用従業員の数が1人以上である。
・資産管理会社、風俗営業会社に該当しない。
→資産管理会社とは、特定財産(有価証券・自ら使用していない不動産・ゴルフ会員権・現金預金等)が総資産の70%以上の会社や、これらの特定財産からの運用収入が総収入の75%以上の会社をいいます。)
(2)先代経営者の要件
・過去に代表権を有していたこと
・贈与時において代表権を有していないこと
・贈与前に先代(筆頭株主)とその特別関係者が50%超の議決権を有していること
(3)後継者の要件
・会社の代表権を有していること
・20歳以上であること
・役員の就任から3年以上経過していること
・後継者とその特別関係者が50%超の議決権を有することとなること
・後継者が複数の場合、議決権の10%以上を有することとなること
(4)担保提供
納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供すること
(この制度の適用を受ける株式等の全てを担保として提供すれば要件を満たします。)
6.相続税の要件
(1)会社の要件 贈与と同じ
(2)先代経営者の要件 贈与と同じ
(3)後継者の要件
・相続開始の日の翌日から5ヶ月を経過する日に会社の代表権を有していること
・相続開始の直前において、会社の役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)
・後継者とその特別関係者が50%超の議決権を有することとなること
・後継者が複数の場合、議決権の10%以上を有することとなること
(4)担保提供 贈与と同じ
7.認定及び申告書の提出
(1)この適用を受ける贈与や相続があった場合には申告期限までに、会社要件、先代経営者要件、後継者要件を満たしていることにつき、都道府県知事に「円滑化法の認定」を受ける必要があります。
(2)また、申告期限までにこの適用を受ける旨を記載した申告書と一定の書類を税務署へ提出するとともに、担保提供をする必要があります。
8.納税猶予期間中の要件
(1)事業継続要件
・非上場株式を譲渡等しないこと
・後継者が代表権を有していること
・雇用の平均が8割を下回らないこと(都道府県に理由の報告をすれば大丈夫です。)
・資産管理会社に該当しないこと
・先代が代表権をすることとならないこと
(2)手続き要件
ア.申告期限後の5年間の特例承継期間内は、毎年以下の手続きが必要です。
・税務署へ「継続届出書」に一定の書類を添付して提出します。
・都道府県へ所定の事項の「年次報告書」を提出します。
イ.申告期限後の6年目以降は、3年に1回税務署へ「継続届出書」の提出が必要です。
(3)納税猶予期間中に上記(1)と(2)の各要件の1つでも満たさなかった場合には、猶予されていた贈与税又は相続税と利子税を一括で納付しなければなりません。
9.納付が免除される場合
(1)贈与の場合
・先代経営者(贈与者)が死亡した場合
・後継者が死亡した場合
・次の後継者へこの制度を使った贈与をした場合
・会社が倒産した場合
・事業の継続が困難など一定の場合に、会社を譲渡・解散した場合
(2)相続の場合
・後継者が死亡した場合
・次の後継者へこの制度を使った贈与をした場合
・会社が倒産した場合
・事業の継続が困難など一定の場合に、会社を譲渡・解散した場合
(3)次の場合には、猶予税額は免除されず納付しなければなりません。
・事業の継続が困難など一定の場合ではなく、自主的に会社をたたむ場合
・事業の廃止により転業し、不動産賃貸業(資産保有型会社)となる場合
・事業の廃止により休眠会社となる場合(収入金額がゼロとなる場合)
10.メリット・デメリット
【メリット】
・相続税や贈与税が納税猶予され、すぐに納税をする必要がない。場合によっては、最終的に免除となることもある。
・相続を待たずして、スムーズな事業承継ができる。
・相続や贈与のための株価対策として、利益を圧縮する必要がない。
・特例承継計画を提出後、実際に贈与や相続がなくても罰則などないので、とりあえず計画を提出しておくこともできる。
【デメリット】
・猶予打ち切りのリスクがある。その場合は猶予されていた相続税や贈与税と利子税を合わせて一括納付しなければならない。
・猶予期間が極めて長期間に及ぶ。適用後5年間は毎年税務署と都道府県への報告が必要であり、6年目以降も3年に1回税務署への届出が必要。
・要件及び手続が煩雑なため、適用及び管理に注意が必要。
11.特例承継計画の提出が必要な顧問先
・上記要件を満たす先。
・株価が0円でなく、相続税や贈与税がかかる先。
・後継者への事業承継を考えている先。
・先代経営者が現役引退を意識し始めている先(年齢だと50歳以上くらい)
(2018年12月記載)
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