【会社の相続とは】親の会社(経営権)を相続する方法・手続きや注意点、検討すべき対策を税理士が解説
親の会社を相続する場合は、一般的な相続とは異なる手続きを行います。
少しでも有利に引き継ぐまたは、有利に引き渡すためには、早い段階で相続に備えておくことが重要です。
本記事では、親の会社を相続する方法・手続きや注意点を解説します。
併せて、親視点で生前に検討すべき対策も解説するので、事業継承を検討している方もぜひ参考にしてください。
<この記事の監修者> 吉本 貴幸(よしもと たかゆき) 税理士法人吉本事務所 代表社員 税理士・行政書士 大学卒業後、1998年に現在の税理士法人の前身である個人税理士事務所に入所。2021年10月より現職。法人、個人事業のクライアントや相続税、贈与税の申告に関わる一方、税理士法人関連会社の社会保険労務士事務所、行政書士事務所、保険代理店のマネージメントにも携わる。経営に関する総合的な知識のもと、税務申告のみならず、事業運営・起業・法人設立のアドバイスも得意とする。税理士法人関連7サイトの総編集長・監修者として、最新の税務情報発信に務めている。 |
会社の相続とは
会社の相続とは、会社そのものではなく会社の株式を相続することです。
会社は人間と同様に法人として独立した人格をもつため、一般的な財産とは考え方が異なります。
なお、株式は株式会社が発行する有価証券のことで、通常は株主(株式を保有する人)の死亡によって株式は相続の対象となります。
注意点として、会社の財産はあくまでも会社が保有するもので、個人の財産には含まれないため、相続の対象ではありません。
親の事業形態で相続の方法が異なる
同じ事業でも、親が個人事業主のケースと親が法人を設立しているケースでは、相続の方法が異なります。
順に解説します。
親が個人事業主のケース
親が個人事業主のケースでは、税務署に廃業届を提出したうえで、後継者が新たに開業届を提出すれば事業を引き継ぐことができます。
なお、個人の財産に事業用資産も含まれ、財産のすべてが相続の対象となり、一般的な相続の手続きと大きく異なる点はありません。
個人事業主とは、個人で事業を経営する者のことで、法人ではないためです。
親が法人を設立しているケース
親が法人を設立しているケースでは、冒頭でお伝えしたように会社の株式を相続します。
会社そのものや地位は相続できず、あくまでも株式のみが相続の対象となる点に留意しておきましょう。
なお、親の会社を引き継ぐには、後継者となる相続人が株式を相続しなければなりません。
また、有限会社も株式会社と同じく、会社を引き継ぐ際は会社の株式を相続します。
親の会社(経営権)を引き継ぐ方法・手続きは、次章で詳しく解説します。
親の会社を相続する方法・手続き
ここからは、親の会社を相続する方法・手続きを解説します。
主な流れは以下の通りです。
1.自社株を取得する(株式を相続する) 2.取得した株式の名義変更を行う 3.代表取締役に就任する 4.その他の手続きを行う |
1.自社株を取得する(株式を相続する)
親の会社(経営権)を引き継ぐには、自社株の2/3以上を取得するのが望ましいでしょう。
株主の権利である議決権(株主総会で会社の経営に対して決議する権利)は、株式の保有数に応じて付与されることが理由です。
2/3以上を保有していれば会社の重要事項を決定できるため、経営の安定化が図れます。
なお、複数の相続人が共同で経営していく場合は、遺産分割協議で割合を決めるとよいでしょう。
2.取得した株式の名義変更を行う
自社株を取得したら、次は株式名簿を書き換えて株式の名義変更を行います。
名義変更を行うまでは、決議権を行使できません。
なお、上場株式の名義変更は、証券会社を通じて行いましょう。
3.代表取締役に就任する
株式の名義変更が完了したら、次は株主総会を開催して代表取締役に就任します。
取締役の選任・解任する際は、株主総会による決議が必要です。
株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、株主総会の開催は省略できます(書面決議・みなし決議)。
また、代表取締役に就任したら、法務局で登記を行わなければなりません。
法務局での登記を無事に終えたら、会社を相続するための主な手続きは完了です。
申請書の様式や注意事項は、法務局のホームページで確認してみてください。
法務局:商業・法人登記の申請書様式
4.その他の手続きを行う
会社を相続するための主な手続きは3で完了しましたが、以下のような機関で代表者変更の細かい手続きも忘れずに行いましょう。
1.税務署(県税事務所・市町村役場含む) 2.金融機関 3.年金事務所 4.健康保険組合 5.事業の許認可 など |
会社の相続で後継者が注意すべきこと
次に、親の会社を相続する際に後継者が注意すべきことを3つ解説します。
自社株の1/2または2/3以上を取得する
会社を相続するには、後継者となる相続人が以下の割合で自社株を取得しましょう。
経営権の確保 | 1/2以上 |
重要事項の決定 | 2/3以上 |
相続人が1人であれば問題ありませんが、相続人の中で株式が分散すると意見の相違によるトラブルが起こるケースも珍しくないためです。
株式を相続すると相続税がかかる
株式の相続により、相続税がかかる場合もある点に留意しておきましょう。
相続税は遺産総額に応じて高い税率が適用され、会社の経営に影響を与えかねないため、事前の対策を検討すべきです。
なお、相続税は財産ごとの評価額を基準に計算します。
株式の場合は非上場株式と上場株式で評価方法が異なり、特に非上場株式の評価は単純なものではありません。
いずれの場合も実際の評価には専門的な知識が求められるほか、評価額を下げれば相続税の負担を軽減できるため、まずは税理士に相談しましょう。
連帯保証人の地位が引き継がれる
会社の負債に対して親が連帯保証人になっている場合は、会社を相続すれば親から子へ連帯保証人の地位が引き継がれる点にも注意が必要です。
通常通り会社が返済できれば心配は不要ですが、もし返済が困難になった場合は後継者が返済義務を負わなければなりません。
ただし、円滑な事業継承を支援するための「経営者保証ガイドライン」により、金融機関との交渉次第で保証契約を解除できる場合があります。
一定の要件が設けられているため、専門家に相談してみましょう。
中小企業庁:経営者保証のガイドライン
【重要】生前の対策で相続トラブルは防げる
ここからは、相続トラブルを防ぐための対策を3つ解説します。
遺言書を作成する
相続トラブルを防ぐには、遺言書を作成するのが有効です。
遺言書の内容は法定相続分(法律で定められた相続割合)よりも優先されるため、会社は誰に引き渡すのか、自宅は誰に引き渡すのかなど、自身の意思を反映しつつ円満な相続を実現できます。
ただし、遺言書で自由に指定できるとはいえ、遺留分(兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分)の配慮は必要です。
財産割合を考慮する
相続の対象となる財産は会社(株式)だけではないため、後継者以外にも相続人がいる場合は、後に不満が出ないよう財産割合を考慮しましょう。
生前に家族で話し合って後継者を決めたとしても、相続発生後に揉める場合もあるためです。
とはいえ、相続人の中で株式が分散することは避けたいため、「遺留分に関する民法の特例」を適用して株式の分散を予防する方法も検討するとよいでしょう。
事業継承を検討する
計画的に事業継承を行えば相続トラブルを防げるほか、「事業承継税制」の適用を受ければ相続税・贈与税の納付が猶予または免除されます。
事業継承には多くの時間を要しますが、税金面だけでなく実務面でもメリットがあります。
円滑に事業を引き継ぐためにも、税理士に相談してみてください。
会社を相続したくないなら相続放棄の選択も
もし親の会社を相続したくない場合は、相続放棄の選択も一つです。
ただし、相続放棄は相続の権利をすべて放棄することで、会社以外の財産も相続できなくなります。
慎重に検討する必要があるため、急いで判断せず専門家へ相談したほうがよいでしょう。
なお、相続放棄を選択する場合は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所での手続きが必要です。
一人会社を相続放棄したらどうなる?
親が一人会社の代表取締役で、相続人全員が相続放棄を選択したケースでは、会社の事業活動が停止することになります。
株式を相続する者(株主)がいなければ、新たに代表取締役を選任できないためです。
なお、12年以上登記が行われていない会社は、解散したとみなされます(みなし解散)。
会社を消滅させたい場合は、「清算」と呼ばれる手続きが必要です。
会社相続に関するご相談は税理士法人吉本事務所へ
会社の相続に関するご不安は、税理士法人吉本事務所へご相談ください!
税理士だけでなく、社会保険労務士、行政書士、保険外交員が在籍しているため、会社の相続にかかわるご相談や手続きを幅広く承っております。
なお、相続問題は相続専門の税理士が担当いたしますので、初めて相続を経験される方でもご安心ください。
また、当事務所は「経営革新等支援機関」の認定を受けており、専門家として個人様から法人様まで事業継承をサポートいたします。
これまで築き上げられた事業を少しでも有利に引き渡すまたは、有利に引き継ぐためにも、ぜひ一度当事務所までご相談ください。
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(つながらない場合はこちら075-872-6255)
まとめ
会社の相続とは、会社の株式を相続することです。
会社そのものや地位は相続の対象ではなく、あくまでも株式のみが対象となります。
なお、親の会社(経営権)を引き継ぐには、自社株の2/3以上を取得し、相続人の中で株式が分散することは避けなければなりません。
また、相続トラブルを防ぐためにも、どのように会社(株式)を引き渡すべきか、どのような対策を検討すべきか、専門家へ専門的なアドバイスを求めましょう。